精神鑑定クイズの解答
F吉とD菜がB美のところにやってきた。
F吉「『犬を飼っていた女の子』ってクイズ、解いてくれる?」
B美はプリントアウトを読み終えると、2人に尋ねた。
B美「あなたたちはどう思ったの?」
F吉は自信なさげに答えた。
F吉「どこがクイズなのか、わからなかった」
D菜も釈然としない顔だった。
D菜「その女子大生は責任感が強くて、次に事故を起こしたら、今度こそ取り返しがつかないと思ったから、泣く泣く犬を保健所に連れて行った…とか思ったんだけど、まさかこんな簡単なので正解なわけないし」
B美は首を振ると、ぼそぼそと答えた。
B美「それで正解よ。おめでとう」
D菜は抗議した。
D菜「ねえB美、やけにテンション低くない? 本当にこれで正解なの?」
B美はきっぱりと答えた。
B美「まちがいなく、それで正解。人間として、それが正しい答え。つまりD菜もF吉も、すばらしい善人ってことよ」
F吉とD菜は追加の説明を求めた。B美は仕方なく答えた。
B美「これには『精神鑑定クイズ』って名前がついてるわね。つまりこれは、精神異常者を検出するためのクイズなの。これと同じタイプで有名なのに『弔問客に惚れて息子を殺した未亡人』があるんだけど」
F吉は首を振った。
F吉「それ僕、知らない」
D菜「私も聞いたことないわ」
B美は、そのクイズを紹介した。
B美「あるところに、夫婦と息子の3人家族が暮らしていました。ところがある日、夫が急死してしまいました。そこで葬儀が行われたのですが、参列に来た、夫の会社の同僚の男に、未亡人は一目惚れしてしまったのです。さて数日後、未亡人は自分の息子を殺してしまいました。なぜでしょう?ってクイズよ」
F吉「ええ? 何それ」
D菜「再婚したいけど、息子さんがいると邪魔になるから?」
B美は頷いた。
B美「普通の人なら、そう答えるの。でも精神異常者は『息子の葬式でもう一度、その同僚の人に会えるから』って答えるんだって」
F吉とD菜はびっくりした。
F吉「もう一度、会いたいってだけで息子を殺しちゃうの?」
B美は答えた。
B美「だからこそ、精神異常者をあぶりだすクイズなのよ。それによく考えてみれば、ある意味、実にリアリスティックな行動だと思わない?」
「息子を殺しても、その同僚と再婚できる可能性は低いけど、葬儀にその同僚がやってくる可能性は高いから」
「つまり、ある意味、賢くて合理的なんだけど、全体としてのバランスがものすごく悪くて、みんなが『え? それだけのためにそこまでやる?』って思うような人を、検出するクイズなの」
D菜は納得した。
D菜「『犬を飼っていた女の子』も、そういったクイズなのね?」
B美は頷いた。
B美「F吉とD菜は、『その女子大生は責任感が強かったから、泣く泣く犬を保健所に連れて行った』っていう、すごく一般的な答えをした。だからあなたたちはとっても健全なの。良かったじゃない」
F吉「じゃあ精神異常者はどう言うの?」
B美は答えた。
B美「ブログのアクセス数を増やしたかったから」
F吉とD菜は絶句した。
B美は淡々と続けた。
B美「そもそも、その女子大生が犬を飼い始めた動機は何?」
F吉は答えた。
F吉「東京の一人暮らしで寂しかったからだよね?」
B美は頷いた。
B美「そう。つまりその娘は、寂しさを埋められれば何でも良かった。友達か彼氏さえいれば、犬を飼ってはいなかった」
「本当は彼女は、他人とのつながりを求めてたんだけど、それが手に入らなかったから、仕方なく犬を飼ってたのね。文章を注意深く読むと、その娘が犬を好きだったとは、まったく書かれていないでしょ」
「ところがブログを書いているうちに、あきらめていたkミュにケーションが手に入っちゃう。アクセス数が伸びて、何か書くたびに、みんなが注目してくれる。そのうちその女子大生は、もっとアクセス数を伸ばしたい。もっと私のことを知ってもらいたい。たとえブログが炎上したって、無視されるよりずっとまし…そう思うようになったのよ」
B美は不愉快そうに続けた。
B美「現実には、たとえブログが炎上したところで、『責任感がある』とか『筋を通した』とか、彼女に味方する人も多いと思うわ」
「ブログをはじめて1年も経ってるんでしょ? そろそろ新展開も欲しいころよね」
「犬を処分すれば、保健所に連れて行く日の悲しさとか、犬がいなくなった寂しさとか、飼い主としての自責の念とか、徐々に痛手が癒えていく様子とか、新しい犬を飼おうと決意するとか、心機一転、ペットショップに行くとか、いえ、保健所の犬を引き取るってほうが、贖罪にもなるから、もっと効果的ね。そんな感じで当分、ネタには困らないでしょうし」
B美は吐き捨てるように言った。
B美「つまり私は、裏の正解も思いつくようなタイプだったってわけ」
「この問題の裏の正解を思いついた人は、立派だと思うけど、ちょっと注意したほうがいいとも思うの」
「まして『アクセス数を伸ばしたかったから』って回答のほうが自然と思うような人は、すごく精神的に危険な状態だと思う。こんなクイズを嬉々として作った人に至っては、もう救いようがないわ。このクイズの作者を見かけたら、全力で反対方向に逃げることね」
採点基準。
「精神鑑定クイズ」の趣旨を理解している…1点
ブログに関して触れている…1点
「アクセス数を増やすため」と回答…5点
「犬好きと書いていない」と指摘…1点
そもそもの動機について指摘…1点
ブログの今後の展開を予測…1点
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