秋葉原殺傷 第16回公判
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《東京・秋葉原の無差別殺傷事件で殺人罪などに問われた加藤智大(ともひろ)被告(27)への弁護人質問が続く。女性弁護人は短大卒業後、仙台に住む友人のアパートに居候したときの様子について尋ねる》
弁護人「両親のところに行こうとは思わなかったのですか」
被告「実家に戻るということはとりあえず、考えませんでした」
弁護人「どうしてですか」
被告「最初から選択肢にありませんでした」
弁護人「居候していたときはどんなことをしていましたか」
被告「一緒に遊んだり、ハローワークに行って仕事を探したりしました」
弁護人「どんな仕事を探しましたか」
被告「自分にできそうな仕事を探していました。工事現場で歩行者などを誘導する警備員の仕事を探していました」
「友人が先に仕事を見つけ、仙台のアパートを引き払ってしまったので、住む場所を失いました。背に腹は代えられないので、実家に連絡してお金を融通してもらい、市内でアパートを借りました」
弁護人「お母さんは何と言っていましたか」
被告「合鍵を作ることが条件になりました」
弁護人「どう思いましたか」
被告「嫌でしたが、背に腹は代えられませんでした」
《加藤被告は「背に腹は」と強調した。母親に対する複雑な思いがうかがえる》
弁護人「就職活動はどうなりましたか」
被告「求人で見つけた警備会社に決まりました」
《加藤被告は短大卒業後の平成15年7月、警備会社で働き始める。ただ正社員ではなく、アルバイト採用だった》
弁護人「仕事はどういう内容でしたか」
被告「工事現場で赤い棒を持って、人や車を誘導していました。ただ現場は最初だけで、内勤に抜擢(ばってき)されました」
弁護人「内勤ではどんなことをするのですか」
被告「営業の社員が契約してきた工事現場への警備員の配置を計画していました」
《弁護人は加藤被告に勤務状況について質問。加藤被告は時給700円で月に300時間前後働き、多いときで25〜26万円程度の月給を受け取っていたことを説明した》
弁護人「やりがいは感じましたか」
被告「はい。生活も充実していました」
弁護人「職場でトラブルを起こしたり、トラブルに巻き込まれたりしたことはありましたか」
被告「一度、現場を放棄して帰宅したことがあります」
弁護人「なぜですか」
被告「内勤時代に(工事現場で)人が足りず、現場に出ました。現場から一般道路に出ようとしたダンプカーに停止するよう指示を出しましたが、指示を無視して飛び出していきました。『指示に従わないなら誘導員は要らないだろう』と帰りました」
弁護人「ダンプへの抗議として?」
被告「そういうことです」
弁護人「直接言えばよかったのではないですか」
被告「今思えば、そうでした。上司にこっぴどく怒られ、(工事に関係する)会社に謝りに行きました」
弁護人「職場での人間関係はどうでしたか」
被告「1人を除き良好でした」
弁護人「1人とは?」
被告「自分が所属していた営業所の所長です。所長は自分自身のこと、成績のことしか考えず、人の話を聞かないイメージがあり、うまくいかなかった」
弁護人「所長と衝突したのですか」
被告「直接衝突はしませんでしたが、私が『これはどうでしょう』と提案しても、一見聞いているようで何も聞いておらず、採用も拒否もせず(提案を)つぶされました」
弁護人「つぶされるとは? もう少し説明を」
被告「放置された、という意味で使いました」
《加藤被告は所長に不満を募らせながらも、同僚たちと食事に行ったり、ゴーカートで遊んだりと充実した生活を送った。地元の友人とも付き合いがあり、このころは事件当時に直面していた孤独とは無縁だったようだ》
弁護人「この会社で働いているとき、車の免許を取りましたね?」
被告「はい。平成16年春だったと思います」
弁護人「それまでに取らなかった理由は?」
被告「母親が『大学に行ったら車を買う』という約束を反故にしたことへのアピールだった」
弁護人「では、なぜこのときに取ったのですか」
被告「母親から『お願いだから取って。お金も出すから』と言われました」
《加藤被告はその後、この警備会社を退社することになる。弁護人はその理由について質問する》
被告「待遇というよりも、所長に提案しても許可も採用もされず、手応えがなかった。それが理由です。所長へのアピールで辞めました」
弁護人「なんで辞めることがアピールに?」
被告「自分がいなくなったら、会社が少し困った状況になり、そうなったら(所長が)どうして私が辞めたか考えると思いました。私が何が言いたかったのか伝わると思いました」
弁護人「辞めてしまっては自分が損するのではないですか」
被告「今思えばそうです。当時はアピールのことで頭がいっぱいでした」
《再び登場する「アピール」という言葉。加藤被告は不満を募らせた場合、相手に直接気持ちを伝えず、後先考えずに行動を起こす傾向にあるようだ》
《加藤被告は退職後、アパートを引き払い、仙台市内の友人の家に居候を始める。合鍵を持っていた両親には何も告げなかった》
弁護人「両親がアパートに訪ねてくると思わなかったのですか」
被告「そこまで考えていませんでした」
弁護人「心配すると思いませんでしたか」
被告「両親のことは頭にありませんでした」
《そして、加藤被告はこの友人方に居候をして職探しをしていたころから、携帯電話のサイトにアクセスするようになったという》
弁護人「このころから掲示板を使うようになりましたね?」
被告「当時はゲームをしていて、そのゲームに関する情報を探すためにサイトにアクセスして、サイトにあった掲示板を使うようになりました」
弁護人「このころから掲示板に書き込むようになったのですか」
被告「このころは掲示板べったりではなかったです。ゲームに必要な情報がほしいとき、質問を書き込みました。その程度の使い方でした」
《加藤被告は派遣会社に派遣登録して、平成17年4月から埼玉県内の自動車工場で働き始めた》
弁護人「埼玉に行くことは両親に伝えましたか」
被告「いいえ。最初から両親に伝えることは頭にありませんでした」
弁護人「連絡先は教えましたか」
被告「携帯電話を変えましたが、(新しい電話番号は)教えませんでした」
弁護人「両親と関係を切りたかったのですか」
被告「携帯電話の掲示板にアクセスして、月の通信料が数十万円になっていた。別の携帯(会社)に変えれば、通信料が定額4000円くらいになるので、携帯電話を変えました」
弁護人「職場での人間関係はどうでしたか」
被告「悪くはなかったです」
弁護人「寮に住みましたか」
被告「はい。派遣会社が借りた3LDKのアパートに3人で住みました」
弁護人「遊んだりしたのですか」
被告「勤務時間が違うので、関係は薄かったです」
弁護人「職場以外の人間関係は?」
被告「(故郷である)地元の友人にメールしました」
弁護人「ほかには?」
被告「掲示板上でも友人ができました。仕事以外の時間は掲示板に充てていました」
弁護人「休日はどのように過ごしましたか」
被告「ゲームをしたり、掲示板に書き込んだり、秋葉原に行ったりしました」
弁護人「秋葉原にはよく行ったのですか」
被告「たまに1人で行きました」
弁護人「どうして行ったのですか」
被告「地理的に近く、私がゲームが好きだったからです。私もオタク的要素を持っていたので、秋葉原に自然と興味を持つようになった」
《微動だにしない加藤被告。淡々とした証言から、「孤独」「掲示板」「秋葉原」という事件を引き起こしたときの環境が徐々に出来上がっていく様子が分かる》
法廷ライブ10に続く
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