秋葉原殺傷 第17回公判
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《東京・秋葉原の無差別殺傷事件で殺人罪などに問われた加藤智大(ともひろ)被告(27)。男性弁護人は、事件で使用したナイフの入手経緯から当日の状況まで、被告の心情を中心に事件前の核心部分に迫っていった》
弁護人「福井までナイフを買いに行かずに、身近な包丁という考えはなかったのですか」
被告「いま思えば、それで良かったのかなと思います。当時は福井でナイフを買うことに固執していたように思います」
《弁護人は、福井の店で特殊警棒やグローブを買ったことを紹介した》
弁護人「グローブは実際に使ったのですか?」
被告「ぶかぶかでサイズがあわず使いませんでした」
弁護人「ナイフなどを買った後は?」
被告「家に戻りました」
《男性弁護人は、加藤被告が帰宅後、「とりあえずナイフを投げてみようかな」などと書き込んだ内容について尋ねた》
弁護人「なぜ、このような書き込みをしたのですか」
被告「いかにもナイフを買ってきて、(ネットの掲示板でなりすました人物たちに)事件を強く連想させ、なりすましをやめてほしいとの警告だったと思います」
《弁護人は、事件前日の被告の行動について、質問を変えた》
弁護人「(事件前日の)6月7日は何をしていましたか」
被告「(秋葉原で)パソコンやゲーム機を売却し、レンタカーの予約をしました」
《弁護人はレンタカーの予約について尋ね、それに対して加藤被告が犯行前に借りたトラックを友人の1人に見せた理由について「友人に見せたかったから」と語った》
弁護人「友人に見せたかった理由は?」
被告「大きな車が運転できるところを見せ、人並みにできることを知ってもらいたかったからだと思います」
《秋葉原から帰宅後の被告の行動について、男性弁護人が被告の横に立ち、法廷内のモニターに資料を映しながら、「頭痛がひどい」との加藤被告の書き込みについて尋ねる》
弁護人「どのような痛みでしたか」
被告「頭の内側からずきずきするような感じでした。頭を振ると痛かったと思います。体調が悪いわけではありませんでした」
弁護人「次の日(事件当日)のことを考えていたのですか」
被告「特に何かを考えていたわけではないです。何をしていたのかもよく分かりません」
《記憶をたどりながら淡々と証言していた被告も、事件前日から当日にかけてのことになると、少し考え込むような間をみせる》
弁護人「6月7日の夜のことで覚えていることはありますか」
被告「よく分かりません。警告を繰り返し、(なりすましをしている人物に気づかせることで)事件を起こさない方法を考えていたと思います」
弁護人「警告とは?」
被告「なりすまし、荒らし行為に対し、何とかしてほしい。無視していた管理人らに本気で嫌がっていたことが伝われば、問題解決になりました」
弁護人「どういう風になれば伝わったと思えるのですか」
被告「彼らが謝ってくれれば、伝わったことが確認できました」
《ここから、弁護人が事件当日の加藤被告の行動についての質問に入った》
弁護人「6月8日の朝は何をしていましたか」
被告「朝ご飯を食べて、レンタカーを受け取りにいきました」
弁護人「朝にスレッドを新しく立ち上げたようですが」
被告「それは覚えていません」
《加藤被告は記憶にないものの、事実関係は認め、男性弁護人は、被告が「なりすましの『レス(レスポンス、返信の意味)禁』をおねがいします」と管理人に送った書き込みの内容について質問を続ける》
弁護人「どういう意図があったのですか」
被告「『レス禁』にしてもらえれば、なりすましもなくなるので削除してもらいたかったと思います」
弁護人「削除されていれば、違った結果になったと?」
被告「その可能性がないとは言えません」
《弁護人が掲示板にスレッドを立てた経緯や、「秋葉原で人を殺します」と書き込んだ内容を提示し、再び事件当日の朝、被告がレンタカーを受け取った後の質問に移った》
弁護人「レンタカーを受け取った後は?」
被告「自宅に戻り、友人にあげようと思ってまとめていたゲームなどをトラックに詰め込み友人のところに行きました」
《加藤被告は、自宅を出て秋葉原に向かう際に、ナイフをどのように持って行ったかなどについて説明。レンタカーを借りた後で「友人宅に寄った」とも説明した》
弁護人「友人宅に寄った際のやりとりは?」
被告「友人にあげたゲームなどの解説や、トラックの写真を撮ろうとしていたので、『写真をメールしたりするのは明日以降にしてほしい』と言いました」
弁護人「どこに行くのかも聞かれましたか」
被告「東の方に行くという風にいいました」
弁護人「どれくらいの時間、友人と話していましたか」
被告「はっきりとは覚えていませんが、15〜20分ぐらいだったと思います」
弁護人「掲示板上での悩みは相談してみようとは考えませんでしたか」
被告「特に考えなかったです」
《男性弁護人は、友人との接触についての質問から、秋葉原に向かった経緯についての質問に変えた》
弁護人「友人に物をあげた後は?」
被告「高速道路を経由して秋葉原に向かいました」
弁護人「着いたのは?」
被告「正午少し前だったと思います。いったん車を置いて、パチンコ店のトイレで、掲示板で自分のスレッドを編集する準備をしました」
弁護人「編集するということはどのような行為なのですか」
被告「編集することは掲示板上に直接事件の内容を書く行為であり、事件の一部でした」
弁護人「(事件の)スタートになる行為ということですか」
被告「はい。そうです」
弁護人「(編集することは)どういう意味があるのですか」
被告「現実に事件が起きていることを『荒らし』が知って、罪悪感を感じることになるはずでした」
弁護人「具体的に編集する手続きは?」
被告「文章を作成して、それを送信するという二段階です」
弁護人「文章を作るところまでいって、送信ボタンは押せなかった」
被告「押せませんでした」
《被告は、これまでより、はっきりした口調で否定した》
弁護人「どうして?」
被告「編集すると掲示板上の事件が開始することになるが、事件を起こさずに問題を解決したいという思いがまだあったと思います」
弁護人「引き返せないと思ったから?」
被告「そうです」
弁護人「結局、トイレでは送信できなかった?」
被告「そのまま車に戻る途中で、結局、送信して、完了させてしまいました」
弁護人「送信ボタンを押した瞬間を覚えていますか」
被告「なぜ(押した)かも良く覚えていません」
弁護人「いまではどう考えていますか」
被告「八方ふさがりでした。もうそれ(事件を起こす)以外に問題を解決する方法がないと考えていたんだと思います」
《ここから、秋葉原の交差点に進入した際の質問に移り、交差点に3回向かい、3回ともためらった理由について男性弁護士が詳しく説明を求めた》
弁護人「1回目はなぜ、突入しなかったのですか」
被告「赤信号で、止まってしまいました。本能的に、(突入に)ものすごい抵抗があり、意志とは関係なく、体が拒否した感じでした」
弁護人「その後も、突入できなかった」
被告「本来は交差点を曲がり、歩行者天国に突入する予定でしたが、ハンドルは切れませんでした」
弁護人「3回目通過して、何を考えましたか」
被告「(事件を)起こしたくない。掲示板の事件を始めたが、中止できないか考えました」
弁護人「具体的には?」
被告「このまま、秋葉原を離れて、レンタカーを返えそうと考えました」
弁護人「それで?」
被告「そうしたところで、この先、自分の居場所がどこにもない。結局やるしかないのかと考える方向になりました」
弁護人「居場所がないとは?」
被告「事件を起こさなければ、掲示板を取り返すこともできない。愛する家族もいない。仕事もない。友人関係もない。そういった意味で居場所がない。そのように感じたのだと思います」
弁護人「今はどう思っている」
被告「掲示板にのめりこんでいたときには、それに執着していたが、いまになって考えると現実の方が大切な部分がありました。居場所もあったようにみえて後悔しています」
《後悔を口にしながらも加藤被告の淡々とした口調は最後まで変わらなかった。弁護人は「きょうはここで終わります」と告げ、裁判長が閉廷を告げた。次回公判は7月30日午前10から開かれる予定だ》
秋葉原殺傷 第18回公判(14/14)に続く
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