i-mobile
秋葉原殺傷 第18回公判
8/14

《約1時間半の休憩後、村山浩昭裁判長が開廷を告げ、午後の審理が再開された。黒のスーツ姿の加藤智大(ともひろ)被告(27)は傍聴席に一礼し、弁護人の前の長いすに座った》

《午前の審理に続く弁護人による被告人質問の前に、女性弁護人は、証拠として裁判所に提出する加藤被告と被告の両親が、被害者にあてた手紙を朗読し始めた》

弁護人「被害者17人のうち、10人は受領しましたが、7人は受領されませんでした。被告人の両親の手紙は『ただただ申し訳ない』という内容ですが、被告の手紙は朗読します」

弁護人「おわびすることは心情を害するだけではと思い、1年悩みましたがそれでも人として謝罪しようと思い、筆をとりました」

「私は良い子を演じてきました。申し訳ないと思っている自分は本当の自分なのか倒錯した気持ちです。申し訳ありませんが事件の記憶はほとんどありません」

弁護人「報道では親や社会のせいとなっていますが、どこからそうなったのか分かりません」

「私の罪は万死に値します。しかしどうせ死刑になると開き直るのではなく、きちんと説明したいと思います。説明することで似たような事件が起きないよう、対策になればと思います」

《弁護人が朗読した加藤被告の手紙からは、被害者への謝罪の気持ちの一方、「自分の気持ちなのか分からない」など、当事者意識の薄さもうかがえる》

《続いて、男性弁護人による被告人質問に移った。事件を起こした理由などが、改めて加藤被告の口から語られていった。加藤被告は、これまでの質問と同様の淡々とした口調だが、しばしば口ごもりながら答えていく》

裁判長「それでは被告人質問を」

弁護人「これから事件をなぜ起こしたのか、それをどう思っているのか、遺族への思いを聞いていきます。あなたは何のために事件を起こしたのですか」

被告「掲示板のなりすましに対して、報道などを通して自分が事件を起こしたのを知ってもらおうと思ったからです」

弁護人「どうして報道を通して伝えようと?」

被告「そうすることで私が嫌がらせをやめてもらいたいと思っているのを伝えようとしました」

弁護人「なりすましをされたのは今回が初めてですか」

被告「これだけひどいものは初めてです」

弁護人「なりすましをされたことでなぜ怒りを覚えたのですか。もう一度説明してください」

被告「掲示板上での人間関係は、私には非常に重要でそれが奪われ、乗っ取られたのは、家族や親しい友人を失うような状況だったからです」

弁護人「なりすましの書き込みを削除しても火に油を注ぐだけだということでしたが、自分のハンドルネーム(掲示板での名前)をずっと使い続ければよかったのではないですか」

被告「ハンドルネームごとなりすまされれば同じことです」

《掲示板での自分固有の名前を本人がずっと使い続けても、別人がその名前をまねすれば、第三者からは、本人か、なりすましかの区別はつかない》

弁護人「なりすましと荒らしがあったということですが、単なる荒らしだけだとどうなりましたか」

被告「荒らしは放置しているとそのうちいなくなります」

弁護人「怒りの対象はなりすましということですか」

被告「はい」

《事件のきっかけとなった、掲示板での嫌がらせだが、中でも最大のきっかけは、なりすましだということが加藤被告の口から明かされた》

弁護人「他の掲示板で新たな人間関係をつくろうとはしなかったのですか」

被告「それではだめです。荒らされた掲示板での人間関係は、引っ越すと維持できないからです」

弁護人「荒らされた掲示板での人間関係が大事だった?」

被告「はい」

《加藤被告が非常に重要視していた荒らされた掲示板での人間関係と、現実での人間関係の違いなどについての質問に移っていった》

弁護人「家族や親しい友人のような人間関係とのことでしたが、多くは冗談を言い合うような書き込みだったということでしたが、そういう冗談を言う人間関係が大事だったということですか」

被告「そういうことではなくて、本心、もとい本音で気を使うことなく、現実の建前社会のような距離感ではなく、家族のような距離感の近さが大事だったといえます」

弁護人「現実の建前社会を説明してください」

被告「相手に対して気を使う、私に対しても気を使うことで、表面的には親しいが、気を使う、使われるのが建前社会だと思います」

弁護人「気を使って接するのと、高校の友人とは本音で接するとかは、考えなかったのですか」

被告「今考えれば、相手によって接する距離感が違うが、私の極端な性格で、すべての人に建前の距離を取ったのだろうと思います」

弁護人「それが掲示板では?」

被告「そうしたことを気にすることなく、本音で相手も私も気を使わない関係でした」

《続いて、インターネットの掲示板で嫌がらせをされたことと、現実世界で17人を殺傷する前代未聞の無差別殺傷が、なぜ結びついたのかに質問が及ぶ》

弁護人「掲示板で嫌がらせをされたことに対して、無差別殺傷でなく別の方法をとろうと考えなかったのですか」

被告「考えた記憶はないです」

弁護人「最初から無差別殺傷で解決しようと?」

被告「もちろん最初は掲示板上で解決させようと思いました。それが無理でも現実での別の方法をとろうと思いました。それが無理だったので事件しかないという流れだったと思います」

弁護人「社会にアピールしたいと思ったのですか」

被告「そういうことではなく、日本のどこに住んでいるか分からない人には、報道しかないと思ったからです」

弁護人「現実に無差別殺傷を起こせば、逮捕されて掲示板どころではなくなるのは分かっていますよね」

被告「それよりも事件を起こして自分なりにメッセージを伝えて解決するのにいっぱいいっぱいでした」

《普通の判断力ができないほど、掲示板での嫌がらせは加藤被告には重要だったのだろうか》

弁護人「今ではどう思いますか」

被告「今ではもっと先のことを見通して行動すべきだったと後悔しています」

《加藤被告は、これまではほぼ淡々とよどみなく答えていたが、後悔の念についてはポツリポツリとつぶやくように答えた》

弁護人「話し合いで解決しようとは思わなかったんですか、事件前に」

被告「意識したわけではないが、嫌いな自分のことを考えないように、世間一般でいう逃げていたことがあったと思います」

弁護人「どうして自分を見なかったんですか」

被告「自分を嫌いだったと。そうとしか言えません。事件後に初めて自分と向き合い考えるようになって気づきました。気づかずに事件を起こしてご迷惑おかけしたのを申し訳なく思います」

弁護人「あなた自身掲示板のことを考えていたとしても、相手の痛みに思いは?」

被告「事件前は自分の問題のことでそれしか考えられませんでした。一直線になっていました」

弁護人「なりすましや荒らしが現実に特定されていたらどうしましたか」

被告「それがどこの誰か分かるなら直接行って何とかしたと思います」

法廷ライブ9に続く

下記広告のクリックもお願いします。