秋葉原殺傷 第19回公判
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《東京・秋葉原の無差別殺傷事件で殺人罪などに問われた元派遣社員、加藤智大(ともひろ)被告(27)の第19回公判が3日午前10時前、東京地裁(村山浩昭裁判長)で始まった。今公判は被告人質問の4日目。被告人質問は当初、5日間予定されていたが、今公判で終了する予定だ》
《加藤被告はこれまでの被告人質問で、もっとも注目された犯行動機に関し、捜査段階で供述したとされる派遣切りをめぐるやり取りや、派遣先でのトラブルについて「事件には関係ない。あくまでインターネットの掲示板での嫌がらせが動機」と否定。掲示板で、「なりすまし」や「荒らし行為」など、「自分に嫌がらせをしてきた人たちに事件を起こすことで本当に嫌がっていることを伝えたかった」などと語った》
《このため、弁護側は、捜査段階での供述調書の任意性について争う姿勢を示し、加藤被告も「訂正を申し出たが直してもらえなかった」などと主張。前回の3日目から始まった検察官の被告人質問では、供述調書と矛盾する証言を続ける加藤被告に、検察官がいらだつ場面もあった》
《今公判でも、検察官がこうした矛盾を追及した上で、加藤被告から事件の真相について、どこまで引き出すことができるのかが注目される》
《午前9時57分、傍聴席から向かって左側の扉から、これまで同様、黒いスーツに白いワイシャツ、短髪でめがねをかけた加藤被告が法廷に入ってきた。傍聴席に一礼すると、弁護側の長いすに座った》
《同9時58分、村山裁判長が開廷を告げ、加藤被告が証言台に移った》
裁判長「前回に引き続いて検察官から質問します」
被告「はい」
《前を見据えた加藤被告が小さな声で答える》
《村山裁判長に促され、向かって右手の後列に座っていた男性検察官が立ち上がり、質問を始めた》
《起訴状によると、加藤被告は平成20年6月8日、秋葉原の交差点にトラックで突っ込み、3人をはねて殺害。さらにダガーナイフで4人を刺殺したほか、10人にけがを負わせたなどとされている》
検察官「あなたのハンドルネーム(インターネットの掲示板上での名前)はクロノコでしたね」
被告「はい」
検察官「なぜ、その名前にしたのですか」
《加藤被告は、予想しなかった質問だったのか、しばらく間を置いた》
被告「特に強い意味はないんですが、別の掲示板利用者が『アオ』という言葉をよく使っていて、それが耳に残っていて、『アオ』を『クロ』に変えて、クロノコにしました」
検察官「それだけのことなのですか」
被告「はい、そうです」
《期待した答えではなかったのか、検察官は加藤被告の今公判での供述内容の確認を続けていく。捜査段階での供述調書との矛盾をつくためなのだろうか》
検察官「あなたの当公判廷での供述によると、平成20年5月31日の時点では、漠然と殺傷系の事件を起こそうと考えていたが、やろうと決意したわけではなかったということですね」
被告「そうですね」
検察官「6月5日の時点でも、事件をやらない方向で考えていたと思うということでしたね」
被告「はい」
検察官「事件を起こさずに済む方法を考えていたが、思いつかなかったため事件を起こしたということでしたね」
《加藤被告は、しばらく考え込んだ様子で、間をおいて発言する》
被告「起こしたというより、起こさざるをえなかったということです」
検察官「当公判での供述としては、結局、今回の無差別殺傷事件を決意したのは、6月20日の事件直前ということですか」
被告「6月8日ですね…」
《事件日を間違えた検察官に対し、加藤被告はすかさず訂正した》
検察官「書き込みの送信ボタンを押したときということですか」
被告「無差別殺傷事件を決意したといえるのは(トラックでの突入を)3回ためらって、その後、4回目に突入する、その前だと思います」
《途切れ途切れに答える加藤被告。事件を起こした時期をはっきり覚えていないためか、発言は他人事のようだ》
検察官「その前、というのは?」
被告「3回ためらった後、3回目と4回目の間のどこかのタイミングではないかと思います」
検察官「あなたとしては、大きな事件を起こそうと考えたことは確かだが、具体的にどんな事件を起こそうかと、思考のプロセス、思考の過程は覚えていないということですか」
被告「いや、大きな事件を起こそうと考えた覚えもないです」
《質問は、凶器となったダガーナイフの殺傷能力の認識に移る》
検察官「ナイフの殺傷能力が高いか低いかは、逮捕されてから分かったと話していますね」
被告「いや、逮捕されてからというか、公判前整理手続きが進む中、開示された証拠の中で知ったということです」
検察官「起訴された後ということですか」
被告「そうなります」
検察官「では、事件当時、殺傷能力が高いか低いか分かっていなかったということですか」
被告「はい」
《検察官は、加藤被告が勤務していた静岡県の関東自動車工業での派遣切りをめぐるやり取りについて聞いていく》
検察官「あなたは5月27日に派遣契約の打ち切りを知らされ、翌28日に説明会に出席しましたね」
被告「はい」
検察官「ところが、6月3日朝の出勤の際、リーダーから工場での残留を告げられましたね」
被告「はい」
検察官「公判での供述では、それに対して何とも思わなかったということですね」
《加藤被告は、しばらく沈黙して続けた》
被告「そうです」
検察官「仲間としばらく一緒にいられて嬉しく思ったということはないですね」
被告「そのように考えた覚えもないです」
検察官「逆に言えば、派遣切りしたかと思えば、残留になったり、あなたの意思を無視して、会社の都合で決められることに不満を覚えなかったということですね」
《加藤被告は、再び沈黙してから続ける》
被告「不満ではありません。疑問くらいには思ったと思います」
検察官「あなたの公判での話としては、会社への不満は感じなかったということですか」
被告「はい。それはそうです」
《ここで検察官は、証拠の一部を示すと告げ、加藤被告が事件直前に掲示板に書き込んだ内容をまとめた資料を法廷内のモニターに映し出した》
検察官「5月28日午前7時3分の書き込みの要旨を読み上げます」
【何度も転職、引っ越しをしましたが、自分の意思ではない転職、引っ越しは初めてです。これまでは、希望を持って転職していましたが、今回はただ、追い出されただけです】
「これはあなたが書き込んだもので間違いないですね」
被告「まー、そうだと思います」
《検察官は、事件直前の書き込みを示すことで、加藤被告の公判での供述との食い違いを指摘したいようだ。さらに、別の書き込み内容を読み上げ、確認していく》
検察官「これらの書き込みはネタ(冗談)ですか、本心ですか」
被告「まー、ネタのときもあるのですが、これは自分の書き込みだけを抽出したもので、ログの方で確認してみないことにはよく分からないです」
法廷ライブ2に続く
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