秋葉原殺傷 第19回公判
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《加藤智大(ともひろ)被告(27)に対する検察官の質問が続いている。加藤被告は、事件を起こす直前の心境や現場の交差点にトラックで突入した際の状況に答えていく。これまでと同様、裁判官の方を向いたまま証言台に座っているが、弁護人の被告人質問よりも、答えづらそうに口ごもることが多い》
検察官「大きいトラックの方が人をたくさん殺せるという理由だったのですか?」
被告「それは関係ないように思います」
検察官「事件前に、親しい友人にプレイステーションとかスローイングナイフを渡しましたよね」
被告「はい」
検察官「所持金はいくらでしたか」
被告「…ちょっとはっきりしませんが、2万円…3万円…それぐらいはあったように…」
検察官「犯行を中止すると、所持金も所持品も居場所もないとか考えなかったですか」
被告「所持金は、レンタルしたトラックを燃料を満タンにして返す分はありました。事件を中止すれば帰る場所がないっていうのは、事件直前3回ためらった後、4回目に突入する前に現実として突きつけられたという感じはありました」
《加藤被告は、弁護人による被告人質問で、現場の交差点に3回向かったが、3回ためらい、4回目で歩行者天国に突入したと答えている》
《ここで別の男性検察官に質問者が交代した。これまでの被告人質問で答えてきた内容などについて、厳しく突っ込んだ質問をしていく》
検察官「計画段階のことを聞きます。記憶がないと何度も話していますが、何でだと思いますか」
被告「…よくわかりません」
《加藤被告は前を向いたまましばらく口ごもった後、つぶやいた》
検察官「事件を起こす前の人生で何日にも記憶が欠落したことはありましたか」
被告「…はい」
検察官「いつごろからですか」
被告「例えば今まで生きてきたことで、特に記憶に残った部分しか出てこなくて、その間の記憶が抜けるのはよくあります」
《検察官は、事件を起こした動機や準備段階の心境などについて質問していく》
検察官「今回の事件より前にサバイバルゲームをやったことはありますよね。そのメンバーの中に自衛隊にいたことがある人はいましたか」
被告「…みんな学生だったのでいないと思います」
検察官「これまでの同僚で自衛隊に入隊した人はいましたか」
被告「それはいました」
検察官「自衛隊に入隊していた人から銃やナイフの使い方を教えてもらったりしましたか」
被告「自衛隊の中のおもしろい話はしたことはありますが、具体的な使い方とかは聞いていません」
検察官「事件をなぜ起こしたのかはさんざん聞いていますが、掲示板の荒らしやなりすましに怒っていることを伝えたいと言っていましたが、この原因に対して、秋葉原の人に危害を加えることは釣り合いが取れないのではないかと思うのです。同じ目的のために他に方法はなかったのですか」
被告「今考えれば、穏便なというか人命を犠牲にしないような方法も考えられますが…」
検察官「今考えたのでも良いので例えばどんな方法がありますか」
被告「結局人命は犠牲にしなくても、事件であるのに変わりはないので話したくありません」
《加藤被告は、珍しく回答を拒否した》
《掲示板を荒らす人や加藤被告になりすまして掲示板に書き込む人に嫌がらせを受けたことで、「居場所がなくなった」と答えてきた加藤被告。嫌がらせをした人間に怒りを伝えるには、加藤被告の頭の中には、今でも何らかの事件を起こすことしかないようだ》
検察官「では秋葉原事件のときは、どうして別の手段を考えなかったのですか」
被告「何か事件を漠然と考える中でも複数の選択肢から今回の事件を起こしたという感じではなく、先に結果が決まってしまって、そこまで一直線で行ったような、そうした感じです」
検察官「たくさんの人を巻き込みたかったのですか」
被告「いいえ」
検察官「あなたが怒りを感じていたのは荒らしやなりすましだけじゃないのではないですか」
被告「…事件に関する怒りでいえば、荒らしやなりすまし、(掲示板の)管理人に対してです」
検察官「事件に関係しない怒りは?」
被告「怒りということではなく疑問はありました」
検察官「あなたは不満と疑問を使い分けていますが、どう使い分けているのですか」
被告「自分が受け入れられないのが『不満』で、受け入れたのは『疑問』。そうした感じです」
検察官「先ほど検察官の質問に対して、あなたは『事件を起こさざるを得なかった』と訂正しましたがどういう意味ですか」
被告「荒らしやなりすましといった問題を解決する手段は他にないと思ってしまった、あるいは掲示板上のトラブルを見ないふりをする、切り離してしまうことはできなかったというニュアンスです」
検察官「それは、自分がやったことは正当防衛だったというニュアンスですか」
被告「そういうことではないです」
《検察官は“正当防衛”という表現で、加藤被告に対し、「掲示板を荒らされて嫌がらせを受けていたのだから、それに対する怒りを表したのは当然の行為と思っているのでは」と暗に質問しているとみられる》
検察官「事件前のことを聞きます。3回交差点を通過して4回目に突入したとのことですが、3回目と4回目の間に、自分の居場所は仕事も辞めたからない、所持金もない、事件を起こさないと居場所を取り戻せないという心境でしたか」
被告「そのような流れで事件を起こしたというのはあります」
検察官「これらの理由は事件のずっと前からわかっていたのではないですか」
被告「それらは事件を起こす理由ではないです」
検察官「事件で、どんな人を狙おうとか思っていませんでしたか。本当に誰でも良かったのですか」
被告「はい」
《検察官は、加藤被告の「事件の記憶がない」などの計画性の否定ともとれる発言に厳しい質問を続けた》
法廷ライブ5に続く
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