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秋葉原殺傷 第19回公判
7/11

《男性検察官による加藤智大(ともひろ)被告(27)への質問が続く。検察官は法廷での受け答えで『〜だと思います』と繰り返す加藤被告に突っ込んだ》

検察官「逮捕後の自分の気持ちも『思います』でしか話せませんか」

被告「逮捕直後のことは今思い返してみても、自分で言うのも変ですが混乱していたといいますか…」

《検察官は弁護人の被告人質問で加藤被告が述べた内容に話題を変えた》

検察官「(弁護側の被告人質問で)取り調べで記憶になく、推測で言ったことを調書に断定的に書かれ、(検察官や警察官が)訂正に応じなかったと話していましたね」

被告「はい」

検察官「(平成20年)6月5日に事件を起こすと決めたことと、(掲示板の)スレッドを立てたことは記憶でなく、推測で言ったことを断定的に書かれたということなんでしょうか」

被告「はい」

検察官「動機について、コンプレックスや派遣終了などの不満が、(会社で)つなぎ(がなくなった)事件で爆発したことは記憶ではないと」

被告「はい」

検察官「取り調べ当時は、『そう言われればそうですが』ということを断定的に書かれたんですか」

被告「…なかには明らかに違うことを書かれていたりもしましたが」

検察官「明らかに違うところは具体的にどこですか」

被告「6月8日にスレッドを立てた覚えはないことと、6月5日に事件を思いついた覚えはないです」

検察官「(弁護人の被告人質問で)強く否定したという意味は?」

被告「他のところと比べれば、多少は違うと最初は言いました」

検察官「ふーん。6月5日に事件を思いついたり、6月8日にスレッドを立てた、そんなことはないと思っているんですか」

被告「そうではなくて、『6日、7日と準備しているから5日に思いついたんじゃないの』と言われ、当時の自分もそうではないかと考えたが当時の記憶はないんです。『6月8日に新しいスレッドが実際に立っているんだ』と警察官に言われ、立っているんであれば(自分もそうではないかと考えた)と」

検察官「なるほどね。公判前に弁護人の説明や証拠開示で思い出したこともありますか」

被告「そうしたものもあります」

《加藤被告は姿勢を変えることなく、淡々と答えていく。検察官は腕組みをしながら質問を続ける》

検察官「分かりました。まず、つなぎ事件で『自分はいらない人間だ』という気持ちはわきましたか」

被告「今となってはよくわかりませんが、ないように思います」

検察官「供述調書にはそう書かれていますね」

被告「よく分からないです」

検察官「精神鑑定の先生にもこの話をしていない?」

被告「覚えていません」

検察官「警察官が(調書の)訂正を受け入れない。細かくあげればきりがないと言っていましたね?」

被告「はい」

検察官「訂正は何度も申し入れましたか」

被告「最初のころはある程度求めました」

検察官「ある程度とは何回くらいありましたか」

被告「例えば『殺すつもり』のところは数回、5、6回ですかね。訂正を求めたと思います」

検察官「『殺すつもり』の部分だけじゃなくて不満だと思ったのは何回くらいあったのですか」

《加藤被告は沈黙した》

検察官「要するに、取り調べで何回訂正を求めたのですか」

被告「訂正を求めたのが何カ所という話でよろしいですか」

検察官「そういう話でもいいですよ」

被告「重要な部分以外は調書を見ないと何とも言えないです」

検察官「何とも言えない? 覚えていないのですか。正確な回数は求めていないです。取り調べの記憶はないのですか」

被告「何回と言われてもよくわかりません」

検察官「実際に訂正された調書もありますよね?」

被告「はい」

検察官「あなたの言う重要、重要でないとはどういうことですか」

《加藤被告はまた沈黙した。検察官はたたみかける》

検察官「『重要でないところは訂正に応じた』と話していましたよね?」

被告「事件に関係が深いところは訂正をしてくれない。事件から遠い部分は妥協して(訂正して)もらえました」

検察官「事件から遠い近いを判断するのは私たちではないですか? あなたの主観ですよね」

被告「…」

検察官「まあいいですけれど。検察官の調書で『何が何でも殺してやろうという思いは持っていませんでした』と訂正されたものがありますね。殺人の構成要件に関わる重要なものではないですか」

被告「自分のなかで、その調書は例外と思っています」

検察官「どういう意味ですか」

被告「どうして訂正してくれたのか分かりません」

検察官「訂正の理由が分からない、と」

被告「はい」

検察官「取り調べは不満でしたか」

被告「不満というより残念でした」

検察官「ふーん、××検事(法廷では実名)とかは悪い感じでしたか」

被告「仕事と人柄は別です」

検察官「××検事の人柄は?」

被告「取り調べの時間内で、事件とは関わらない雑談の印象しかありませんが、取り調べを離れれば普通の人だと思いました」

検察官「感謝をしているとかはありませんか」

被告「はい」

検察官「取り調べを受けるのはイヤだったですか」

被告「単純にイヤかイヤでないかと聞かれれば苦しいことではあったんですが」

《検察官はさらに、取り調べ中に行った録音や録画について質問を重ねていった》

検察官「一部の取り調べの録音録画を覚えていますか」

被告「はい」

検察官「取り調べ中に泣いている場面がありますね。どうして泣いていたんですか」

《加藤被告はまた沈黙した。約10秒ほど続く長い沈黙だ》

被告「…なぜかはよくわからないです」

検察官「記憶はなくなりましたか」

被告「取り調べ中に何回か泣いた覚えはあるんですが、なぜ泣いたかと聞かれてもよく分かりません」

検察官「10月9日の取り調べの録音録画で××検事に『正直に話した。言いにくいこともあったけれど』と話していますね」

被告「覚えていないけれど、そう撮れているならばそうです」

検察官「DVDを見て確認した?」

被告「全部は見ていないです」

《検察官は録画した取り調べでの加藤被告の供述内容を一つ一つ読み上げ、確認していく》

《検察官は「(××検事に)よく話を聞いてもらいました」「(事件で記憶に残っている)刺した人数は3人、はねた人数は2人と(調書に)数字ではっきり書いてほしい」などの加藤被告の供述を読み上げた。任意の供述であることを強調したいようだ。加藤被告は「覚えていないです」と繰り返した》

検察官「6月9日午前の初めての弁護士との接見を覚えている?」

被告「午前中かは覚えていませんが」

検察官「ほぼ毎日接見に来てくれましたね」

被告「はい」

検察官「供述を訂正してくれないことを相談しましたか」

被告「覚えている範囲で相談しました」

検察官「最初に相談したのはいつですか。おおざっぱに」

被告「早い段階です。おそらくですけど、6月5日に事件を思いついたわけではないのに、あるかのような調書になったのはかなり早い段階だった」

《ここで正午になったため、検察官が村山浩昭裁判長に「5、10分超過します」と告げた。村山裁判長は了承した》

検察官「弁護士に調書に署名、押印しなくてもいいという説明は受けましたね?」

被告「しないこともできるという話は聞きました」

検察官「××検事もそういった説明はしましたね?」

被告「『するしないは自由だが、できればしてくれ』と言われました」

検察官「署名を拒否しなかった理由を『罪悪感』と言っていましたが、説明してください」

被告「一言で言えば、聞き分けのいい子が出てしまったと言えるんですが」

検察官「あなたの話を聞く限り、書かされたわけではない。どうしていい子になっちゃうんですか」

被告「合理的には説明できないんですが、拒否してはいけない感情が自分の中にあったんです」

検察官「録音、録画の取り調べのとき、検事は(録音や録画をすることを)言いましたね?」

被告「言ったと思います」

検察官「カメラが回っていたことが分かりましたね?」

被告「はい」

検察官「録画をしているとき、どうして大事なことが言えなかったのですか」

《加藤被告はやや間をおいて答える》

被告「分かりません」

検察官「乙号証の被告の署名と捺印(なついん)を示したいと思います」

《乙号証とは被告の供述調書。検察官は加藤被告の供述調書の束を持って、加藤被告が座る証言台の前に立って、目の前で供述調書を開く》

検察官「これはあなたのですか」

被告「はい」

検察官「自分で内容を確認して、署名、捺印をしましたね?」

被告「はい」

検察官「間違いないから、署名、捺印をしたんですよね?」

被告「間違いないというよりは、署名、捺印するものだと思っていました」

検察官「乙号証の末尾を示します。この署名、捺印はあなたがしましたか」

被告「はい」

《検察官は加藤被告の供述調書について署名と捺印を一つひとつ確認していき、加藤被告はいずれも自分が行ったことを認めた。確認が終わった段階で検察官と村山裁判長が話し合い、午前中の被告人質問が終わった。検察官はあと30〜40分程度の時間が必要だと求めた》

《加藤被告は背筋を伸ばして立ち上がり、いつものように傍聴席に向けて一礼をして退廷した》

《約1時間20分の休憩を挟み、午後は1時半から引き続き検察官の被告人質問が行われる》

法廷ライブ8に続く

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