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秋葉原殺傷 第19回公判
8/11

《約1時間20分の休憩後、村山浩昭裁判長が開廷を告げ、午後の審理が再開された。東京・秋葉原の無差別殺傷事件で殺人罪などに問われた加藤智大(ともひろ)被告(27)は傍聴席に一礼し、弁護人の前の長いすに座った》

《加藤被告が裁判長に促されて証言台に座った後、午前の審理に引き続き、男性検察官による被告人質問が再開された》

検察官「あなたは自分が事件のことをしっかり話して、再発防止につなげていきたいと話していましたね?」

被告「はい」

検察官「同じような事件が再発してほしくないという気持ちを持っているのですか」

被告「はい」

検察官「報道されている範囲の話になりますが、(秋葉原事件を)模倣した事件が起きていることは知っていますか」

被告「はい。自分が事件を起こした少し後に(あった)」

検察官「どう思いましたか」

被告「その事件の犯人がなぜ事件を起こしたのかは分かりませんが、何かを抱えていたところに私の事件がきっかけになる形で、事件を起こさせたことは残念です。事件の被害者、遺族に対しては、自分が間接的に影響を与えたので申し訳ないと思っています」

検察官「秋葉原事件は『17人殺傷事件』などと呼ばれていますが、あなたは被害者は17人だけだと思いますか」

被告「直接、身体的な被害を受けたのは17人ですが、家族、遺族、親しい方を含め、多くの方々に精神的な面で被害を与えたと思っています。事件の報道を見聞きしてトラウマになった人もいるかもしれません。それを考えると、多くの方に迷惑をかけ、申し訳ないです」

検察官「これまでの弁護側の質問で、ネットの仲間や友達への思いを話していましたね? 検察側の証人となった目撃者、被害者に対してはどう思っていますか」

《言葉に詰まる加藤被告。検察官は腕を組み、厳しい視線を加藤被告の横顔に注いでいる》

被告「私に事件の記憶がないせいで、ある意味、2次被害的な…、再び裁判に出てもらうことは申し訳ないと思っています」

検察官「迷惑をかけたと思っていますか」

被告「本来、しなくてもいい負担をさせてしまい、申し訳ありません」

検察官「検察側の証人は34人です。その証言を聞いて、新たに思いだしたことはありますか」

被告「いえ。特に新しい記憶が戻ったことはありません」

検察官「あなたにとってプラスにはならなかったのですか」

被告「はい」

検察官「(刺されて重傷を負った)被害者Iさんの奥さんが証言したとき、涙を流していましたね?」

被告「はい」

検察官「これまでの裁判で涙を流したのはあのとき1回だけでした。何があったのですか」

《加藤被告は10秒以上沈黙を続けた後、やや小さな声でしゃべりはじめる》

被告「何があったのかは説明できませんが、あのときは…、よく分かりませんが涙があふれて止まりませんでした」

検察官「何かが胸を打ったのですか」

被告「覚えている言葉はあります」

検察官「何ですか」

《加藤被告は再び、間を置いてから答える》

被告「『人のために一つでもいいことをして』と仰っていました」

検察官「青森の友達、自動車工場の同僚の証言のとき、笑っているように見えました。何か面白いことがあったのですか」

被告「今思えば、不謹慎だったと反省しています。証言の中で過去の面白かったことを思いだして、顔に出してしまい不謹慎でした。申し訳ありません」

検察官「(自動車工場で加藤被告が着ていた)ツナギの『加藤萌え〜』(と書かれていたこと)の話をしているときでしたね?」

被告「はい」

《検察官が語気鋭く質問を重ね、加藤被告は弱々しい声で答えた》

検察官「あなたはこの事件の犯行途中、準備段階のことをかなり記憶していないと話していますね?」

被告「はい」

検察官「でも携帯電話のアドレス(電話番号、メールアドレス)類を消去したことは覚えていますか」

被告「はい」

検察官「知り合いに迷惑がかかると思って消したのですか」

被告「はい」

検察官「その段階で事件を起こした後、親しい人に迷惑がかかると思ったわけですね?」

被告「そういうことになります」

検察官「でも、多くの人の命を奪った。命の奪われた人たちに迷惑をかけるとか思いは至らなかったのですか!」

《検察官が怒気を含んだような声で一気にまくし立てる》

被告「そういうことに思いが至らなかったことを悔いています」

検察官「見ず知らずの人にとんでもない危害を加えることに、どうして思いが至らなかったのですか!」

被告「なぜなのか自分でもよく分かりません。本当に申し訳ありません」

《検察官はやや落ち着いた声色に戻して、質問を続ける》

検察官「あなたは被害者、遺族に手紙を送りましたね」

被告「はい」

検察官「同じ文面の手紙でしたね?」

被告「はい」

検察官「何か意図があったのですか。面倒臭かったのですか」

被告「いえ。そういうことではないです」

検察官「被害者、遺族の苦痛について『ネット掲示板の荒らしで殺されたような』と書いていましたね。これらを同列に比較するのはいかがなものか」

被告「当時、家族同然の存在が荒らしなどの行為で奪われました。そういったつもりで掲示板のたとえ話をしました。しかしそういった掲示板は普通の人にとっては大したものではないことに気づき、大変失礼なたとえ話をしました。申し訳ありません」

《ここで検察官が再び語気を強めてたたみかける》

検察官「あなたは掲示板でひどい行為を受けても、命を奪われずにここにいます。しかし被害を受けた人はここにはいません。比較の対象にはならないでしょう!」

被告「はい」

検察官「あなたはこれまで『残された時間で償いをしたい』と話していましたね?」

被告「はい」

検察官「どんな償いができると思っていますか」

被告「自分が何をしたところで、奪った命は返ってくるわけではありません。そういった意味では、償いは…、償いは…」

《加藤被告はしきりに瞬きをして、大きく息を吸い込んだ》

被告「何もできません。けど、Iさんの奥さんに言われたように何か、少しでも良いことができないか考えますし、事件のことをきちんと話をしたい」

検察官「あなたがきちんと、正直に話すことを被害者、遺族は期待しています。わかりますか」

被告「はい。記憶がない点は申し訳ないです。少しでも思いだせるものは思いだしていきたいです」

《ここで検察官の被告人質問が終了。村山裁判長が弁護側に再質問の意向を尋ねると、休憩後の再質問を求めた》

《村山裁判長は約20分の休憩を挟み、午後2時20分から被告人質問が再開される》

法廷ライブ9に続く

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