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押尾学 女性死亡 初公判
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《合成麻薬MDMAを飲んで容体が急変した飲食店従業員、田中香織さん=当時(30)=を放置して死亡させたとして、保護責任者遺棄致死など4つの罪に問われた元俳優、押尾学被告(32)の裁判員裁判の初公判が3日、東京地裁(山口裕之裁判長)で始まった。弁護側は遺棄致死とMDMA譲渡の2罪について無罪を主張する方針で、検察側との激しい攻防が予想される。また、芸能人が被告となる初めての裁判員裁判でもあり、押尾被告の無罪主張に対し、裁判員がどのような判断を下すか注目される》

《数々の映画やドラマに出演するなど人気俳優だった押尾被告の転落の始まりは、昨年8月3日、MDMAを使用したとして、麻薬取締法違反(使用)容疑で逮捕されたことだった》

《押尾被告は11月2日、同法違反罪で懲役1年6月、執行猶予5年の有罪判決を受けたが、元女優、酒井法子さんの事件と同時期に世間を騒がせた「芸能人の薬物事件」は、それだけでは終わらなかった》

《警視庁は押尾被告と一緒にMDMAを服用した後に死亡した田中さんについて、容体の異変から通報まで約3時間が経過していたことなどから、救護処置に違法性があったとみて捜査を継続。12月日に、田中さんにMDMAを譲渡したとする麻薬取締法違反容疑で押尾被告を逮捕し、今年1月4日には保護責任者遺棄致死容疑で再逮捕した》

《今裁判の最大の争点は、押尾被告に田中さんの救命が可能だったかどうかだ。検察側は、田中さんが急性のMDMA中毒症状を発症してから死亡するまで約1時間あったとみており「すぐに救急車を呼べば助かった」と主張する方針。これに対し、弁護側は「異変からは長くて30分、急変からは数分程度で死亡した。急変後には心臓マッサージなど適切な措置も取った」と反論する見通しだ》

《判決言い渡しの今月17日までに予定されている公判は計8回。押尾被告にMDMAを渡したとして実刑判決が確定した友人の男性や、MDMAを通じ押尾被告と関係のあった女性、救命救急の専門医ら19人もの証人が出廷予定だが、元妻の女優、矢田亜希子さんは含まれていない》

《押尾被告は今年2月以降、東京地裁に計7回保釈請求したが、いずれも却下され、東京・小菅の東京拘置所での生活は約7カ月に及ぶ。関係者によると、押尾被告は3畳の独居房で、裁判員裁判や冤罪(えんざい)事件に関する本などを熱心に読み、計13回にわたった公判前整理手続きにもすべて出席。8月発売の雑誌に掲載された“獄中ノート”には「死に物狂いで無罪を取る」という裁判への強い意気込みをつづっていた》

《押尾被告と検察側の“全面対決”を傍聴しようと、東京地裁には朝から、わずか61席の傍聴券を求め、1554人が長蛇の列をつくった。昨年10月に開かれた薬物事件の初公判の2232人には及ばないが、相変わらず注目度の高さをうかがわせる》

《午後1時29分、東京地裁最大の104号法廷には、すでに山口裁判長と2人の裁判官が席についている。注目の裁判員はまだ入廷していない》

《1時30分、向かって左側の扉から、押尾被告が入ってきた。深く一礼した後、険しい表情で向かって左側の弁護人席の前の長いすに腰を下ろした。黒いスーツに白いワイシャツ姿、ネクタイはしていない。以前は短く刈り込み、白髪が目立っていた頭髪は肩までかかるほど伸び、少しカールしている。いわゆる“ロンゲ”という状態だ。白髪はほとんど見られない。ほおがこけ、やややつれた印象で、半年以上に及ぶ拘置所生活の厳しさをうかがわせた》

《裁判所職員が「起立願います」と大きな声を上げると、正面の扉から6人の裁判員が入廷してきた。男性4人と、女性2人だ。スーツ姿の女性もいれば、Tシャツ一枚というラフな服装の男性もいる。一様に緊張した様子だ。山口裁判長を含め、3人の裁判官の両サイドに3人ずつ並んで座った》

《押尾被告は、立ち上がる直前、持参した文書を少し開いて確認した》

裁判長「それでは開廷します。被告人、前へ」

被告「はい」

《押尾被告が声を上げ、中央の証言台の前に立つ。人定質問が始まるようだ》

裁判長「名前は?」

被告「押尾学です」

裁判長「生年月日は?」

被告「1978年5月6日です」

《山口裁判長は本籍地を確認した上で続ける》

裁判長「住居不定、無職ということですが、それでいいですか」

被告「住所は多摩市…です」

《山口裁判長は押尾被告が話した住所を繰り返した上で、「無職ということでいいですか」と改めて尋ねると、押尾被告は小さく「はい」と答えた》

《続いて山口裁判長に促され、眼鏡をかけた男性検察官が立ち上がり、法廷によく通る低い声で起訴状を読み上げた。押尾被告は「気をつけ」の姿勢で聞き入っている》

《起訴状によると、押尾被告は平成21年8月2日午後5時50分ごろ、東京都港区の六本木ヒルズの一室で、一緒にMDMAを服用した田中さんがけいれんを伴う錯乱状態に陥り、午後6時ごろには急性MDMA中毒症状を発症したにもかかわらず、救急車を呼ぶことなく放置し、午後6時47分ごろから同53分ごろの間に、田中さんを死亡させたなどとされる》

《起訴状の読み上げが終わり、山口裁判長は押尾被告に黙秘権などについて説明した上で尋ねた》

裁判長「検察官が言われた事実について、あなたの言い分はどういうことになりますか」

《ここで、弁護人が文書を読み上げる形での陳述を求め、了承された。押尾被告は持参した文書を開き、はっきりした口調で読み上げ始めた》

被告「私が泉田勇介さん(麻薬取締法違反罪で懲役1年の実刑確定)からMDMAを譲り受けたことは認めます。しかし、譲り受けたのは(起訴状記載の)錠剤10個ではなく、小さなビニール袋に入った粉末です。大きさは分かりません」

「私が田中香織さんにMDAMAを渡したことはなく、無罪です。私が起訴状記載の日時場所で、田中さんとMDMAを服用したのは認めますが、これは田中さんが持ってきたものです」

《検察側は、押尾被告が泉田受刑者から受け取ったMDMAを、田中さんに渡したとみており、押尾被告は錠剤ではなく粉末と主張することで、田中さんへのMDMAの譲渡がなかったことを訴えたいようだ》

《押尾被告は、淡々とした口調で続ける》

「起訴状記載の死亡時刻も午後6時47分から53分の間ではなく、もっと早い時刻です」

《さらに事件当時の生々しい状況が語られていく》

「田中さんの容体の変化について、私の記憶とは違います。田中さんはまず、ベッドの上であぐらをかき、ブツブツと独り言を言い始めました。私が『大丈夫か』と声をかけると、返事をしてくれました。それが数分、長くても10分続いた後、田中さんは突然歯を食いしばった表情になり、こぶしを握りしめて上下に動かし、あおむけに倒れてしまいました。目は半目のような状態でした。息もしていないし、脈も止まっていたので、人工呼吸や心臓マッサージを繰り返しましたが、生き返りませんでした」

《裁判員たちは、かつての人気俳優に、鋭い視線を向けている》

「私は田中さんにMDMAを渡していないので、保護責任はありません。救急車を呼ばなかったのは認めますが、MDMAの発覚を恐れたからではありません。田中さんがベッドの上であぐらをかき、ブツブツと独り言を始め、会話もできたので、私は生命が危険だと思わず、少し休めば元に戻るだろうと思い、救急車を呼ぶことを考えつきませんでした。その後、あおむけに倒れ、息をしていないし、脈も止まっていたので、人工呼吸や心臓マッサージを繰り返し、何とか蘇生(そせい)しようとしましたが、その甲斐なく蘇生しませんでした。私は田中さんを放置しておらず、無罪です」

《押尾被告は、自らの主張を一気に読み上げると、山口裁判長に一礼して、弁護人席の前の長いすに戻った》

法廷ライブ2に続く

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